
愛知県豊明市が制定した「スマホ2時間以内条例」とは?賛否とその意義を考える
2025年、愛知県豊明市で全国初となる「スマートフォン使用時間を1日2時間以内とする」条例が制定され、大きな注目を集めました。この条例は努力義務であり罰則はありませんが、現代社会におけるスマホ依存や健康被害を意識するきっかけになるとして評価されています。一方で、時代に合わない、自由を侵害するなどの批判も出ています。本記事では、この条例の概要と賛否両論、そしてスマホとメンタルヘルスの関係を整理してみます。
もくじ
条例の概要
豊明市の条例は、市民に対して「スマホ等の利用を1日2時間以内に抑えることを目安とする」と定めています。ただし、これは努力義務であり、強制や罰則は一切ありません。
特徴的なのは、制限の対象が「余暇時間」に限定されている点です。つまり、仕事や学習などの利用は制限の対象外とされています。市の説明によると、通勤通学時間やオンライン学習、料理や運動で動画を参考にする場合、eスポーツの練習時間なども余暇時間に含まれないと明記されています。
このように、単純に「1日2時間以内」と全生活を縛るのではなく、「余暇の過ごし方を見直すきっかけ」としての条例になっています。
条例制定の背景
条例の背景には、スマートフォンやSNSの過剰利用が子どもや大人の心身に与える影響への懸念があります。睡眠不足、集中力の低下、学習効率の悪化、人間関係の希薄化、そしてうつ病や不安障害のリスク増加など、国内外で多くの研究が報告されています。
特に若年層では、スクリーンタイムが長いほどメンタルヘルスに悪影響を及ぼすという研究が複数存在し、社会問題化しています。こうした状況を受け、市民の健康を守る目的で条例が検討・制定されました。
賛成の意見
- 健康意識の向上
自治体が明確に「2時間以内」と打ち出すことで、市民が自分の生活を見直すきっかけになる。 - 依存防止
子どもから大人まで、スマホ依存に陥る前に適正利用を考える習慣を作れる。 - 家族や地域での対話促進
家庭でスマホの使い方を話し合うきっかけになるという声もあります。
批判・懸念される論点
1. 実効性への疑問
努力義務(罰則なし)である以上、住民がどれだけ実際に守るかは不透明で、「結局形骸化するのではないか」という懸念があります。
2. 自由・プライバシー介入の懸念
個人の生活時間に自治体が関与することへの抵抗感。「スマホ利用は自己判断の問題」という立場から、行政の過干渉を警戒する声があります。
3. 誤解による批判
「学習・読書・調べものなど有益な使い方まで2時間制限されるのではないか」といった批判があります。ただし条例では、学習・仕事等の利用は制限の対象外と説明されており、この批判は条例案の趣旨説明と食い違うものです。
4. 時間設定の妥当性
なぜ「2時間」が妥当なのかという根拠が十分示されていない、恣意性や基準の妥当性に疑問を呈する声があります。
5. 時代性・適合性批判
批判の中には、「現代ではスマホを使って学習・仕事・調べものをするのが当たり前になっているのに、2時間以内という枠組みは現実にそぐわない」という主張があります。ただ、条例案・市の説明では、こうした有益用途(学習・仕事等)は“余暇時間”に含めず、制限対象外であると明示されています。
※条例案の説明では「生活、仕事、家事、学校、学習時間等を除いた余暇時間」を対象とすると明記されています。具体的には、通勤通学時間やオンライン学習、料理や運動時に動画を参考にする行為、eスポーツの練習なども対象外です(豊明市公式サイト、Impress報道、リセマム参照)。
スマホとメンタルヘルスの研究
近年の研究では、スマホやSNSの長時間利用がメンタルヘルスに悪影響を与える可能性が報告されています。例えば、米国の研究では「1日3時間以上のSNS利用は若者のうつ症状と相関がある」との結果が出ています。また、日本国内でも、睡眠不足やストレスの増加とスマホ依存傾向の関連が指摘されています。
一方で、適切に活用すれば学習効率を高めたり、社会的つながりを維持するなどのメリットもあるため、「使いすぎを防ぐ」ことが鍵とされています。
筆者の感想
私は、この条例は悪いものではないと考えています。確かに努力義務に過ぎず、強制力はありません。しかし、人は「条例」という形で示されなければ、スマホとの付き合い方を深く意識することは難しいでしょう。この条例は、市民一人ひとりが自分の時間の使い方を考える良いきっかけになると思います。
参考文献
- Twenge, J. M., & Campbell, W. K. (2018). Associations between screen time and lower psychological well-being among children and adolescents: Evidence from a population-based study. Preventive Medicine Reports, 12, 271–283.
- 豊明市「スマートフォン等の適正利用の推進に関する条例(案)の概要」 公式サイト