
通信制高校卒業生の26%が進路未定は本当?「ニート養成」との批判を巡って
「通信制高校は、卒業生の4人に1人を進路未定のまま世に送り出している」
そんな報道をきっかけに、Xでは通信制高校を「ニート養成校と言われても仕方ない」と表現する投稿が現れ、関係者の間で議論が広がっています。
通信制高校に進学する人が増えている今、卒業後の進路支援は重要な問題の1つです。
今回、通信制高校卒業後の進路未定者の多さが話題となっていますが、
長期的な統計では、通信制高校の進路未定率は10年前の約40%から26.1%まで低下しています。
この記事では、今回のX上の議論を入口に、文部科学省の学校基本調査、国会会議録、文科省の調査資料などをもとに、数字の意味と通信制高校が担ってきた役割について整理します。
発端は「通信制高校はニート養成校」とするX投稿
議論の発端となった投稿の一つは、通信制高校の進路指導を扱った新聞記事を紹介したものでした。
「生徒の4人に1人を進路未決定状態で放り出す無責任さ。ニート養成校と言われても仕方がない。」
投稿には、通信制高校の役割は終わったのではないかという趣旨の主張も含まれていました。
一方、Xでは通信制高校の関係者や経験者から、学校によって支援体制が異なることや、過去より数字は改善していることを指摘する反応も出ています。
ただし、個々の学校が努力していることと、通信制高校全体の進路未定率が高いことは、同時に成り立ちます。
通信制高校卒業生の26.1%が進路未定なのは事実
まず、26.1%という数字自体は事実です。
2026年6月24日の衆議院文部科学委員会で、文部科学大臣は学校基本調査に基づき、次のように答弁しています。
「通信制高校を令和六年度間に卒業した者のうち、令和七年五月一日現在、二六・一%が進路未決定者などとなっております。」
2024年度卒業生9万1,809人の内訳は、次のとおりです。
※「不詳・死亡」81人を除く。端数処理により合計が100%にならない場合があります。出典:学校基本調査を整理した新しい学校の会「通信制高校の現在と未来 2026」
進路未定が26.1%である一方、54.3%は大学・専門学校・職業能力開発施設などへ進学し、19.5%は就職しています。
2024年度は、大学等進学が28.6%となり、専門学校進学を上回って通信制高校卒業後の進路で最も多い区分になりました。
「進路未定26.1%」は「ニート26.1%」ではない
学校基本調査における「進路未決定者等」は、卒業時点で大学・専門学校への進学や就職など、主要な進路区分に入っていない人をまとめた統計上の区分です。
文部科学省は、この区分について、家事手伝いをしている人、外国の学校へ入学した人、進路未定であることが明らかな人などを含むと説明しています。
出典:文部科学省「高等学校教育の在り方ワーキンググループ(第1回)議事録」
進路未定率は、高校卒業直後の進路を学校が集計したものです。一方、一般に使われる「ニート」は、年齢や就業・就学状況など別の条件で捉える言葉です。そのため、進路未定者全員をそのまま「ニート」と呼ぶことはできません。
文科省が定時制・通信制高校94校を対象に行った調査では、学校が把握する進路未定の背景として、次のような事情が挙げられています。
出典:文部科学省「定時制・通信制の課程を置く高等学校について(令和5年度)」
ひとまとめに「進路未定」とされていても、実際の状況は一人ひとり異なります。
それでも全日制・定時制より高いのは事実
「ニート26.1%」という表現は不正確ですが、進路支援の課題がないわけではありません。
2024年度卒業生の進路未定率を課程別に比べると、通信制の高さは明らかです。
文部科学大臣も国会答弁で、通信制の26.1%は「他の課程に比べると高い比率」だと認めています。
通信制高校には不登校経験者や心身の不調を抱える人など、多様な背景を持つ生徒が在籍しています。その事情を考慮する必要はありますが、卒業後の社会的自立につながる支援は、今後も強化が必要です。
実は約40%から26.1%へ長期的に改善している
今回の議論で見落とされやすいのが、進路未定率の長期的な変化です。
約40%
→
26.1%
2014年度卒業生 2024年度卒業生
学校基本調査をもとに整理された資料では、2014年度卒業生の進路未定率は約40%でした。
その後の推移は、次のようになっています。
出典:文部科学省「学校基本調査」をもとにした2025年資料・2026年資料
「26.1%もいる」という課題と、
「約40%から26.1%へ改善してきた」という変化は、
どちらも事実です。
改善の背景として、新しい学校の会は大学等進学率の上昇を挙げています。
実際に、通信制高校卒業生の大学等進学率は、2020年度の19.5%から2024年度には28.6%まで上昇しています。
通信制高校は何のために作られたのか
通信制高校は、もともと不登校の生徒のためだけに作られた制度ではありません。
原点は戦後の1948年です。
当時は、経済的な事情などから働きながら学ぶ若者も多くいました。そこで、教育の機会均等の理念に基づき、勤労青少年にも高校教育を受ける機会を保障するため、高校の通信教育が始まりました。
新制高校の発足とともに、高校通信教育が始まる。当初は国語1教科からスタート。
通信教育だけで高校卒業が可能になる。
学校教育法の改正により「通信制課程」として制度化。全日制・定時制と並ぶ高校教育の課程となる。
勤労青年に加え、不登校経験者、心身の事情を抱える人、芸能・スポーツ活動と両立する人など、多様な生徒の学習機会を支える。
1953年に制定された「高等学校の定時制教育及び通信教育振興法」も、もともとは勤労青年の教育機会を確保するための法律でした。
ところが現在は、就業しながら学ぶ生徒の割合が減る一方、不登校経験を持つ生徒など、多様な背景のある人の受け皿へと役割が変化しています。
2026年の国会でも、この変化を踏まえて制度の目的や支援体制を見直す必要性が説明されました。
つまり通信制高校は、「役割を終えた制度」というより、社会の変化に合わせて役割が変わってきた制度だと考えられます。
改善していても、進路支援の課題は残る
ここまで読むと、「進路未定率は改善しているのだから問題はない」と思う人もいるかもしれません。
しかし、それも違います。
新しい学校の会が行った卒業生への追跡調査では、卒業時に進路未定だった人のうち、卒業後も「働く・学ぶ手前で、どうすればよいかわからない状態」が長引く人が一定数いることが示されています。
ただし、この調査は加盟校の卒業生を対象とした民間調査であり、通信制高校卒業生全体をそのまま代表するものではありません。
それでも、卒業時点の数字だけではなく、卒業後に進学先で学び続けられているか、就職後に働き続けられているかを追う必要があるという問題提起には意味があります。
国会でも、現在の学校基本調査は卒業時点の状況を示すものであり、その後を継続的に把握していない点が指摘されました。
また、文科省の学校調査では、通信制高校側から次のような課題も挙げられています。
・登校機会が少なく、生徒の状況を把握しにくい
・進路ガイダンスに参加しない生徒へ情報が届きにくい
・高校卒業そのものが当面の目標になっている生徒もいる
・福祉や就労支援など、学校外の専門機関との連携が必要
進路支援を教員だけに任せるのではなく、ハローワーク、地域若者サポートステーション、就労移行支援、大学・専門学校、民間のキャリア支援機関などとつなぐ仕組みも必要でしょう。
通信制高校の価値を「進路未定率」だけで測れるのか
通信制高校の進路未定率が全日制より高いことは、軽視できません。
卒業後の選択肢を具体的に示し、必要に応じて学校外の支援機関へつなぐ体制は、さらに充実させる必要があります。
一方で、通信制高校には、全日制高校へ通い続けることが難しかった人にも、学び直しや高校卒業の機会を保障してきた役割があります。
もし通信制高校がなければ、進路未定率の分母にさえ入らず、高校卒業そのものを諦めていた人がいた可能性もあります。
そのため、進路未定率だけを見て、制度全体を「失敗」「不要」と判断することはできません。
26.1%という課題を直視しながら、約40%から改善してきた事実と、通信制高校が学習機会を支えてきた役割も同時に見る必要があります。
✓ 全日制・定時制より高く、進路支援には課題がある
✓ 一方で、進路未定率は約40%から26.1%へ長期的に低下
✓ 通信制高校は、時代に合わせて多様な生徒の学習機会を支える制度へ変化してきた
強い言葉で通信制高校全体を切り捨てるのではなく、改善してきた部分と、これから改善すべき部分を分けて考えることが大切です。









